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図書館で借りた本の読書記録です 基本的にミステリ好き


by MameBean
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サクリファイス

サクリファイス
(近藤 史恵 / / 新潮社)

* * * * * * * *

自転車のロードレースのチーム・オッジに所属する白石誓(ちかう)。チームのエースを勝たせるために働く「アシスト」が彼の役割。初めての海外遠征で、誓は思いも寄らない悲劇に遭遇する‥‥。

昨年末の数々のミステリランキングでランクインしていた本作。
「ツール・ド・フランス」という言葉は聞いたことがありますが、自転車のロードレースって馴染みのない世界でした。でも『風が強く吹いている』の時もそうだったけど、知らないスポーツの世界を知るのは面白い。駅伝に引き続き、自転車のロードレースも見てみたくなりました。ほとんどテレビで中継しないのが悔しいところです。

思ったよりもさくさく読めてしまうから文章のボリューム的には少ないんだと思う。でもその少ない中でロードレースの仕組みやヨーロッパチームとの関係などがうまくまとめられていて、ロードレースの魅力が余す所なく伝わってきます。

ロードレースはひとりで戦うのではなく、チーム全体で作戦を立て勝利を掴むスポーツ。チェスや将棋と言った、頭脳的な判断が必要とされるゲームに似ている印象を受けました。
主人公の誓の役割は自分の成績を捨てて、チームの優勝のために働くこと。エースの前を走って空気抵抗を少なくしたり、エースの自転車がパンクしたら自分のタイヤを差し出したり、他チームの選手のペースを乱すための走りをする。ここまで他人のために働くスポーツって他にあるんだろうか。

そんな誓が偶然のチャンスで勝利したことで、戸惑いながらもエースとして活躍する夢を感じ始める。そして知ることになる、チームのエース・石尾の暗い噂。
爽快だった前半に比べて、後半からは渦巻いた疑惑がどんどん濃さを増していきます。そして起こった大惨事。事件が二転三転し、意外な真相が分かります。そして真相を知った後も、誓はアシストとしての役割を果たし続けることができるのか、競技を続けることができるのか。私はそれがいちばんの見所だと思います。

事件が起こってからの展開が早く、読み手が置いてけぼりな感じもありますが、サクリファイスの本当の意味が分かるラストには心を揺さぶられました。

 石尾さんが振り返って、僕を見た。
 小さな声で、だがはっきりと言う。
 白石、食らいついてこい。
by MameBean | 2008-03-05 04:03 | 借りた本─ミステリ